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がんの増殖速度を決めるのも遺伝子の仕事
JUGEMテーマ:がん全般

私が大学の外科学教室に入局した昭和四〇年代は胃癌が多く、癌の手術と言えば胃癌が殆どでした。当時は現在と違って「ガスター・テン」などのような胃潰瘍の特効薬はありませんでしたので、胃潰瘍の手術も多く、毎日のように胃の手術がありました。その当時、農村はまだまだ医師不足で「無医村」が大きな社会問題になっていたのですが、胃の手術があまりにも多く、村人の中には胃の無い人が多くなり、「無胃村?」などという言葉が出来たくらいです。


ところが、現在ではどうでしょうか。がんの世界も様変わりして、肺癌の患者数が急速な勢いで増加しています。統計によると、平成六年には、男性では今まで第一位だった胃癌を抜いて肺癌がトップにおどり出ています。女性ではまだ胃癌がトップで肺癌は第三位ですが、今までの経過から見ると、ゆくゆくは女性も肺癌が第一位になると予測されています。肺癌は大変な勢いで増えています。


肺癌に四つのタイプがあることは前に述べましたが、今回話題の腺癌は肺の周辺の末端の方にできる癌です。そして血管やリンパ管を通って比較的外部に転移しやすい癌と言われています。この癌は肺の端の方に出来る癌なので症状が現れにくく、とかく発見が遅れて『春よ来い』のドラマのように、発見されたときは病気が進んでいて治療が困難なことがよくあります。比較的おとなしいタイプの癌とはいえ、やはり恐ろしい癌であることに変わりはありません。


一方、扁平上皮癌は喫煙者に多く、タバコの煙がまともにあたる肺の入口の太い気管支に出来やすい癌です。その癌はあまり遠くへは転移しませんが、一箇所でどんどん大きくなる性質を持っています。そのために比較的早くからやなどの症状が出ます。特に血痰が出たら要注意です。肺の中心部にできる癌で、どちらかというと手術が困難な癌です。


この二つの癌は、腺や扁平上皮という名前が示すように、粘液を分泌する腺細胞や気管の表面をおおう扁平上皮細胞から発生したもので、癌細胞とはいいながらも、それらの細胞の性質を幾分なりとも備えています。このようなタイプの癌を分化型癌と言います。それは、癌が自分の発生母地にまだ何らかの類似性を持っているという意味です。


ところが、残り二つのタイプの肺癌、小細胞癌に大細胞癌ですが、癌細胞の形が小型か大型であるかを示すだけで、肺に発生したとはいえ、肺のどんな組織とも似てはいません。肺から取ってきたということを知らない限り、何癌だかわからないのです。このような癌を末分化型癌と言います。細胞が器官としての機能を何も持っていない未発達という意味で、それだけ原始的な細胞です。一般には増殖速度は速くたちの悪い癌です。


特に小細胞癌は増殖速度が速く、肺癌の中でも一番悪性度の高い癌といわれています。そのために転移も速く、発見されたときにはすでに他の臓器に転移していることの多い癌です。しかし、それだけに代謝も活発で、抗がん剤や放射線には敏感に反応しますが、それでも肺癌の中では一番治療成績の悪い癌です。


連続テレビ小説『春よ来い』に登場して一躍有名になった肺癌ですが、肺癌だけを見てもこのようにいろいろなタイプがあります。しかもそれは、分化型癌と未分化型癌とに分かれていて、癌の成り立ちを考えるうえで貴重な情報を提供してくれます。


最近の科学では、このように異なる癌細胞の増殖速度に注目して、どのようにしたら癌細胞の増殖速度をコントロールすることができるかという研究がなされています。速度を遅くすることによって、未分化型癌をより分化型癌に近づけ、分化型癌をより正常細胞に近づける試みが行なわれています。これらの操作を遺伝子レベルで行ない、癌を無害化しようというわけです。癌の増殖速度も遺伝子によって支配されていたのです。

| 同じ肺癌でも増殖速度が違う | 05:26 | comments(0) | - | pookmark |
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免疫治療専門医 中嶋靖児
中嶋靖児 著

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