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がんは決められた手順の治療だけでは治らない
JUGEMテーマ:がん全般

元学校の先生は六一歳の婦人で、この方は『「生きたい」と思う気持ちががんの特効薬』の婦人と同じように腺癌というタイプの肺癌でした。この婦人の癌も進行していて、癌は首に転移していました。しかしその程度は軽く、外見上にも特に変化はなく、首が回らないなどというようなことはありませんでした。


本人は六〇歳まで学校一筋に生き、定年を迎える直前の、これからが自分の人生と思う矢先に発病してしまったのです。その不運を嘆き、うっ憤やるかたない様子でした。


その患者は東京在住の方で、都内の有名ながん専門病院で手術を受けていますが、その時すでに癌は首に転移していたようです。そのために、抗癌剤、放射線など最新の現代医療はすべて受け、その上で治療は限界と言われていました。それでもあきらめきれずに方々の病院を転々として、最後に私たちの所にやって来たのです。


診察室では自分の不運を嘆きながら、今まで受けた治療上の不満をいろいろと並べたあとに、診察室のベッドに横たわったまま「先生、助かりますか」とブッキラボーに質問します。私はしばらく考えた末に、「難しいね・・・・・」と思わず答えていたのです。悪いことを言ってしまったなと思う反面、なぜかこう言わずにはいられない気持ちになっていたのです。


「あなたが今まで受けてきた治療は、すべて日本一流のものですよ。それでも良くなっていないのでしょう」と、私は先ほど言ったことの弁解じみたことを言っていました。


その患者の話では、病気のときは安静が第一と考え、入院中も退院後もほとんど寝ていたと言います。それは抗がん剤の副作用もあって無理からぬ点もありますが、今まで自分では何一つすることはなかったようです。このように話をしている間も常に自分の不運を嘆き、自分がつくづくいやになったと言います。毎日イライラして暮らしていたようです。これではどんなに良い治療を受けても良くはなりません。心が常に後ろ向きで、自助努力は何一つしていないのです。


「あなたは自分で何をしたのですか」とたずねますと、すかさず「病気は医者が治すものでしょう」というご返事。しかもご丁寧に「それが医者の務めでしょう」ときた。その口調はどこか学校の先生が生徒に話すような命令調が感じられる。まいった、まいったである。


確かに元先生ご指摘の通り、医者の仕事は病気を治すことです。しかし、がんだけはどうも別格なのです。がんの治療は医者だけの努力ではうまくいかないからです。何故なら、がんは決められた手順の治療だけでは治らないのです。


がんの特効薬や特別な治療法があって、マニュアル通り一定の手順さえ踏めば治るのであれば、元先生の言う通りです。患者はただ黙って静かに寝ていればいいでしょう。しかし、がんではそうはいかないのです。


現在のところ、いったん進んでしまった進行がんや再発がんの治療では、医師のがん治療効果に対する寄与度と申しますか貢献度は、どんなにひいき目に見ても三割を越えることはないと思います。もっともこれは私の独断と偏見による判定ではありますが、残りの七割は患者自身が自分で努力し、自分で治療しなければなりません。


私は外科医ですので、早期がんに対する手術治療の貢献度はかなり高いと身びいきに思ってはいますが、それでも医者のできることは、そんなに高い割合ではありません。早期がんであっても再発し、命を落とすことがあります。まして進行癌に対しては良い治療法がなく、その効果も限られています。貢献度はもっともっと低いはずです。


私はその患者に繰り返して自助努力の必要なことを、具体的な例をあげて説明しましたが納得は得られなかったようです。本人はただ単にリンパ球の注射をしてくれれば、それだけでがんは自然に消えてくれるものと思っていたようです。そうは問屋がおろしません。リンパ球を注射して免疫力を高め、がんを抑え込むためには、いろいろと自分でしなければならないことがたくさんあります。


この説明を聞いた当人は、大変ご不満の様子でした。一度治療を受けただけで、しばらくのあいだ音沙汰がありませんでした。そして五ヵ月後再び来院したときは食事もほとんど摂れない状態になっていたのです。

| 医者が「治す気」になるとき | 05:33 | comments(0) | - | pookmark |
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免疫治療専門医 中嶋靖児
中嶋靖児 著

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