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末梢性免疫寛容ががんの増殖を許している
 JUGEMテーマ:がん全般

人類にとって最大の脅威であった伝染病は、ワクチンのおかげで大部分は克服することが出来るようになりました。しかし、人類の最大の死亡原因であるがんは現在でもワクチンで治すことは出来ません。世界中の学者が、がんのワクチンを作るために今でも全精力を注いで研究していますが、いまだにがんのワクチンは成功していないのです。


それどころか、実際の医療の現場では、手術でがんを切除し、殆どのがんは除去できたと思っていても再発はしますし、また十年以上もの長いあいだ再発がみられず、がんは治ってしまったのではないかと思っていても、それでもがんは再発することがあります。がんにおいては伝染病で見られたような獲得免疫は成立していなかったのです。がんは二度無し病ではなかったのです。


今まで、がんのワクチンが成功しなかった理由もここにあります。がん担当のリンパ球はTリンパ球ではありません。そのために伝染病で成功したようなワクチンの出来るような条件は、がんでは満たされていなかったのです。


考えてみますと、いかににっくきがん細胞ではあってもそれは自分の細胞です。あるとき、自分の正常細胞が突然変異でがん細胞に変身したとしても、もともとは自分の体を構成していた自分の細胞です。無限の増殖を開始する遺伝子のスイッチが「ON」に入ってがん細胞になったとしても、大部分の遺伝子は自分と全く同じで、それは自己そのものです。


がん細胞が自己細胞である限り、自分の免疫で攻撃されることはありません。自分の細胞に対しては末梢性免疫寛容のメカニズムが作動して、免疫反応は起こらないような仕組みになっていたのです。


わずかな可能性があるとすれば、それは自分の細胞をも攻撃できる自己反応性T細胞ではないでしょうか。自分の細胞のわずかな変化にも敏感に反応して免疫反応を起こし、いろいろな自己免疫病を発生させています。この細胞は、細胞のわずかな異物化をも感知する能力を持っています。しかし、そのような能力を持つ自己反応性T細胞であっても、自分の体内に発生したがん細胞を攻撃することはありませんでした。ここでも抹消性免疫寛容によってがんは見逃されてしまっていたのです。


元来、T細胞は生物が海から上陸したとき、急激に増加した外来抗原に対処するために進化して生まれてきたリンパ球といわれています。特に、当時の生物の最大の脅威であったウィルスに対処するために、長い時間をかけてNK細胞から進化して生まれてきたリンパ球がT細胞といわれています。


そして生物は、そのウィルスなどの外敵から身を守るために、最終的には獲得免疫という強力な力を手に入れることでその目的を達成しました。その結果、生物は海から上陸することが可能になったのです。


このように、T細胞は外来の抗原に対しては絶大な力を発揮し、そのために生物は陸上での生活が可能になりましたが、それはあくまでもウィルスや細菌といった外から侵入してきた異物に対する攻撃手段であって、基本的には、T細胞は生物の内部の変化を監視する免疫細胞ではなかったのです。


それでも少数の自己反応性T細胞は残されていて、自分の体内に発生してしまった異常な細胞を発見して攻撃する余地は残されていましたが、そのために自己免疫病は発生してしまったとしてもがん細胞が攻撃されることはなかったのです。


それは、T細胞はがんを攻撃の対象にはしていなかったためではないかと思われます。なぜならば、その当時の人類にとって、がんは生命をおびやかす脅威ではなかったからです。そのためにがんに対しては特別に攻撃をする必要はなかったのかもしれません。


もっとも、子供のがんは別としても成人の普通のがんでは、四〇歳以前にがんが原因で死亡することは滅多にありません。四〇歳になる前に体内にがんが発生していたとしても、そのがんが原因で死亡するのは殆どは四〇歳を過ぎてからです。人類が、種族を維持する年代である二〇歳代や三〇歳代は、がんが体内に存在していたとしても、それは自分の生命をおびやかす脅威ではなかったのです。


当時の人類は、種族維持のために大きな支障となる胎児の異常にたいしては敏感に反応して対処するシステムを持っていたとしても、がんに対しては、がんが体内に存在していたとしても特に脅威ではなく、特別に何かをする必要はなかったものと思われます。がんが人類の脅威となったのは、人々が生殖年齢を超えて長生きするようになってからであったのです。


しかも、がん担当のリンパ球は太古の昔からNK細胞であって、Tリンパ球はがんに対しては積極的に反応するような仕組みにはなっていなかったものと思われます。伝染病で見られる獲得免疫の主役であるTリンパ球は、がん担当リンパ球ではなかったのです。

| 免疫反応の本質 | 14:39 | comments(0) | - | pookmark |
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免疫治療専門医 中嶋靖児
中嶋靖児 著

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