「このたびは、癌や難病の治療で困っている患者さんのために、愛の献血を決意していただきまして誠にありがとうございました。その自発的で暖かいあなたの真心に、心より感謝申しあげます。
献血していただくに当たりましては、つぎに掲げましたような何種類もの血液検査を受けていただき、それらのすべての検査に合格していただかなければなりません。つきましては、ここに、このたび行ないました血液検査の検査結果を、検査原票を添えてご報告させていただきます。
これらの検査が、若き日のあなたのご健康を確認されます上で、お役に立つことが出来ましたら幸いです」
これは、献血に賛同していただき、血液検査を受けていただいた学生さんたちへの検査結果を報告するときに使う報告書の前文です。
実は、リンパ球免疫治療を行なうにあたって、私たちは大勢の学生さんたちに献血をお願いしています。その献血をしていただくにあたっては、血液提供者に前もって何種類もの血液検査を受けてもらわなければなりません。そしてその検査結果を一人一人に別個に報告しています。
検査項目は、貧血の有無を調べる一般血液検査、多項目にわたる肝機能検査、またB型肝炎やC型肝炎などの肝炎ウィルス検査、梅毒検査や成人性T細胞性白血病検査、それにエイズ検査です。これらの検査結果を慎重に検討し、全ての項目で異常のないことが確認出来た学生さんたちに献血をお願いしています。
異常のあった学生さんには直接面談して検査内容を報告します。更に詳しい検査が必要であるか、または治療が必要であるかは、そのときお話するようにしています。今までに大勢の学生さんに検査を受けてもらいましたが、幸いにエイズ患者は一人もいませんでした。
献血者は全員が柔道整復師学校や看護師学校または理学療法士学校などの医療技術専門学校の学生さんたちで、大部分は十八歳から二〇歳までの学生さんです。献血をお願いする学生さんたちには年齢制限を設けていますが、それは二十五歳以下に設定しています。
血液を提供してくださる学生さんの学ぶ医療技術専門学校では、私自身が直接に授業を担当し、免疫学や生理学、または外科学の授業を通して細胞移植などの意味を説明し、その上で献血をお願いしています。
また医療従事者は、職務上、針刺し事故などの医療事故に遭遇する可能性があり、またウィルスや細菌などの病原菌に感染する危険性もあります。そのために、前もって自分の平常時の血液検査の値を知っておくことが必要となります。このようなこともあって、多くの学生さんたちに血液検査を受けることを勧めています。そのとき、血液検査にあわせて献血もお願いしています。このように、この治療は多くの学生さんたちの善意と協力の上に成り立っていたのです。